(文芸春秋)★★★★★
親子孫、3代の家族の話です。
第2次世界大戦中、新天地を求めて満州に渡った祖父と祖母が出会い、結婚し、戦後命からがら
日本にもどってきて、新宿で中華料理店を開きます。そこで高度経済成長期を経て、2010年
までの3代の家族の様子が物語になっています。
見た目はどこにでもいるような家族ですが、一人一人は人生にとても悩んでいて、退職してニート
になったり、カルト宗教団体に入ったり、自殺してしまったりします。角田さんの文章力は
素晴らしく、469ページもありましたが、すぐ読めてしまいました。
祖父の死をきっかけに、祖母と息子と孫が満州に旅行に行きますが、祖母は旅行後「私は逃げて
逃げて生き延びた。逃げることしか時代に抗う方法を知らなかったんだよ。だからあんたたちに
逃げること以外教えられなかった。でも今はそんな時代じゃない。」その言葉を聞き、孫の良嗣は
住宅メーカーに就職し、とりあえずここで5年は働く。そこから逃げ出せば、違和感は違和感の
まま残るだけだと悟るところが印象的でした。これが角田さんの言いたかった読者へのメッセージ
ではないかと思いました。読み応えのある小説です。