現在ロシアで主流になっているピアノ奏法「重力奏法」について書いてみようと思います。
私は武蔵野音楽大学在学中に、東京芸大卒業後ベルリン音楽大学に留学された船橋豊子先生にピアノを習っていました。しかし大学院時代にもっと他の先生に師事してみたくなり、友達の先生の松岡三恵先生に習うようになりました。松岡先生は桐朋学園女子高校在学中に日本音楽コンクールで優勝し(2位がフジコ・ヘミングさんでした)、その後パリ国立音楽院に留学され、リストやショパンの孫弟子にあたるマルセル・シャンピさんに師事されました。
松岡先生には弾き方の基礎的なテクニックから直されましたが、それはそれまで私が習ってきた奏法とは全然違う音色の美しさを重視したものでした。今から思うとそれは「重力奏法」で、私が子供時代から大学時代まで習ってきた奏法はドイツ式の「ハイフィンガー奏法」だったのです。
現在でも日本では「ハイフィンガー奏法」で指導されている方が多いようですが、最近はかなりロシア式の「重力奏法」が注目され、ネットにも動画や記事を書いている方がたくさんいます。
[ハイフィンガー奏法]
戦後広まったドイツ式の弾き方で、手の形を卵型に固定して、指を高く上げ下ろす力で弾く弾き方。
手は丸く一定に保ち、5本の指の力と動きが均等になるようトレーニングします。
この奏法だと腱に対しての負担が大きい、音色の変化を指だけではつけにくい、タッチが固くなってしま
うなどの欠点があります。
[重力奏法]
腕の重さや上半身の重さを鍵盤にかけることにより、鍵盤を押す弾き方。
しかし常に重みを鍵盤にかけるように弾くと、押し付けられたような響きのない変化が乏しい音になって
しまいます。
そうではなく、鍵盤にかかる腕の重みを自在にコントロールして弾く弾き方がロシア奏法です。
腕の重みを全部預けるとフォルティッシモになり、肩や肘に力を入れて手首を浮かせて弾くとピアニッシ
モになります。
世界的に活躍し素晴らしいと認識されているピアニストは、この奏法で安定した音量と多彩な音色の美し
い演奏を奏でています。アルゲリッチ、ソコロフ、キーシン、ダンタイソン、ランランなどがこの弾き方
の代表と言われています。
私はこのような重力奏法で弾けるように、生徒さんに指導しています。